羽衣蒔絵 料紙硯箱(はごろもまきえ りょうしすずりばこ)

謡曲「羽衣」を意匠化した本作品は、大正〜昭和時代初期に当社にて制作されました。「羽衣」のモチーフは日本各地に残っている天女伝説(※)が基になっています。
蓋表から身側面にかけて、金薄肉高蒔絵で三保の松林を表し、赤銅地に金象嵌(ぞうがん)を施した羽衣の形をした彫金金具をはめています。
蓋表と身の側面に描かれた松や岩の一部には「君・か・代・は」「天・の」の葦手(あしで)文字が散らされ、
「君が代は 天の羽衣 まれに着て 撫づとも尽きぬ 巌ならなむ」(『拾遺和歌集』・巻第五)を示しています。
また地面に散り落ちた松葉を金銀の切金で表し、懸子(かけこに描かれた天衣をまとった笙(しょう)と鼓は、天女の舞にちなんだモチーフです。
蓋裏には、満月の中に幻想的に浮かび上がる月宮殿が、また楼閣はそびえ立つ岩山と瑞雲に囲まれ、神々しい光を放っています。
底裏左下隅には「八代 西村彦兵衛作」の金蒔絵銘が記され、蒔絵技術を結集させた豪華な逸品です。
 
※天女伝説
三保の松原の漁師・白龍は、松の枝に美しい衣がかかっているのを見つけ、家宝にするため持ち帰ろうとした。
すると天女が現れ、羽衣を返すように懇願される。天女は羽衣を返してもらう代わりに、月宮殿の様子を表す舞を踊り、
さらに春の三保の松原を賛美しながら、富士山のほうへ舞い上がり、霞にまぎれて消えていく…という筋書き。
多くは説話として語り継がれており、最古の羽衣伝説とされるものは風土記逸文として残っています。