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Zohiko magazine-Voices vol.1

選ばれる美意識を、記録する。

人は、何を選ぶかによって美意識を語る。この特集では、象彦にゆかりのある方々の「選択」の背景にある価値観を記録していきます。

日々の暮らしの中で、何を残し、何を未来へつないでいくのか。その視点を通して、漆や蒔絵が現代の暮らしの中で持つ意味を見つめます。

「未来へ残したい」

——127年続く美容室が、漆の看板を選んだ理由。

「これさえ持っていけば、またどこかで店を始められる。」京都で127年続く美容室「ひさだアートインダストリー」を営む、久田智史さん。

今回、象彦では店舗の顔ともいえる看板をオーダーメイドで制作させていただきました。

髪本来の美しさを引き出すことを大切にし、一人ひとりと向き合う美容室づくりを続ける久田さん。
なぜ、漆と蒔絵による看板を選ばれたのか。
その背景には、「未来へ残したい」という想いがありました。

「長く残せるもの」を持ちたい

久田さんが、もの選びに対する考え方が変わったと感じ始めたのは、歳を重ねるにつれて。


「長く持てるもの、子どもたちにも残していけるものが良いなと思うようになりました。」


代々家族で美容室を営む中で、意外にも、先代から受け継がれてきた”形あるもの”は少なかったと言います。

「店の歴史になるようなものも、暮らしの中で受け継がれていくものも、実はあまり残っていなくて。だから私は、未来に残していけるものを持ちたいと思ったんです。」


お店では後世に残せるものとして、オリジナルのシャンプー開発にも取り組まれているそうです。

漆の看板に感じた、“未来への希望”

象彦を訪れた際、久田さんの印象に強く残ったものがありました。それは、店内にあった古い看板。


「ずっと前のものなのに、蒔絵がまだ綺麗に残っていて。すごいなと思いました。」
その瞬間、看板への考え方が変わったと言います。


「これだ!と思いました。」
「もし何かあっても、これさえ持っていけば、またどこかで店を始められる。未来につなげていける希望みたいなものを感じたんです。」


銀行からは「なぜそんな高価なものを?」と言われたそうですが、
「でも絶対に作れば、この先なんとかなると思ったんです(笑)」
そう笑いながら話してくださいました。

家紋が、“一輪の花”になった

制作過程で印象に残っていることを伺うと、久田さんが真っ先に話されたのはデザインについて。
当初は、ロゴマークを中心にシンプルな構成を想定していたそうです。


しかし打ち合わせの中で、「久田家の家紋はありますか?」という会話がありました。
「家紋を入れるのは少し仰々しいかな、店の雰囲気と合わないんじゃないかなと思っていたんです。」


久田家の家紋は「木瓜紋(もっこうもん)」。
そこから提案されたのは、家紋そのものではなく、ボケの花がそっと一輪咲くデザインでした。


「その発想には驚きました。」
さらに、髪の艶感と呼応するような刷毛の線や、毛筆で描かれたロゴ。
「想像していたものを遥かに超えた提案でした。」

看板が、人との会話を生む

完成した看板は、今ではお客様との会話のきっかけにもなっているそうです。
「この花、椿じゃないよね?どうしてこの花なんですか?」
京都では華道をされる方も多く、そこから話が広がることも少なくないと言います。


また、店舗備品として漆の入れ物やプレートも活用。
地方での展示やプレゼンテーションにも持参し、京都らしさを伝える存在になっているそうです。
「これもまた、会話のきっかけになっています。」

「未来へ残せる一点物」

最後に、オーダーメイドを考えている方へのメッセージを伺いました。
「絶対、持っていたら価値があると思います。そして未来にも長く残せます。」
「茶道具の一点物の棗があるように、それが看板になった感覚ですね。」
「持っているだけで、やっぱり格好良いと思います。」

久田 智史 / SATOSHI HISADA
美容室「ひさだアートインダストリー」4代目オーナー https://hisada1899.com/
「未来へ残したい」という想いから生まれた、一枚の看板。日々使われ、時間を重ねながら、その店の歴史となっていく。

漆や蒔絵が、人生や仕事の風景を少し豊かにしていく——。
そんな可能性を感じたインタビューでした。