多種多様な蒔絵技術によって表現された、雅やかな几帳をモチーフにした硯箱です。
几帳とは、平安時代以降公家の邸宅で使用された間仕切りで、二本のT字形の柱に薄い絹の布を下げたものです。
蓋表にある手前の几帳は織物風になっており、牡丹唐草、青海波(せいがいは)、花菱(はなびし)、花入り亀甲文と鳥獣を配した円文を表し、
左右に蜷(にな)結(むす)びにした赤い紐を長く垂らしています。
奥の几帳は金・銀・青金の研(とぎ)出(だし)蒔絵(まきえ)と螺鈿(らでん)と平(ひょう)文(もん)で秋草を表現しています。
蓋裏には、宴での出番を待っているのでしょうか、几帳の陰で出番を待つ三人の楽人が描かれています。
筝(そう)・笛・篳篥(ひちりき)の楽士の間には高燈台(たかとうだい)が置かれ、油皿には火が灯っています。
画面下から上へ金粉を蒔きぼかすことで、明暗の違いが演出されており、場面の静かな雰囲気が伝わってきます。